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5月10日

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アナスタシア・エヴシナというロシア人のピアニストのコンサートに行ってきました。

私は彼女のことを全く知りませんでしたが、リサイタルの選曲が好みのもの揃いだったので足を運びました。

バッハのパルティータ第1番、ベートーヴェンのピアノソナタ第32番、ラフマニノフのピアノソナタ第1番というプログラム。

もちろんベートーヴェンのピアノソナタ第32番が一番の目的でしたが、ピアニストの年齢がが27歳ということだったので、

ある種の老練を必要とすると感じる32番はそれほど期待していなかった、というのが正直なところです。

 

行って良かったです。期待以上のコンサートでした。まるで交響曲のような難曲のラフマニノフのピアノソナタを含めて全て暗譜で弾き、

時代や個性の異なるそれぞれの作曲家に合う音色・タッチを工夫し、知的な解釈を展開してくれました。

27年間という時間をそうとう有効に使って学び、鍛練しないと、この若さでこうは弾けないだろう・・・と。

これまで努力を惜しまずに成長してこられたであろう人物にたいへん好感を持ちました。

 

一曲目のバッハでは、現代ピアノでバロックを弾くにあたって音を短く、軽く表現していたことを、

2曲目だったベートーヴェンの32番の1楽章の冒頭の音色で気づかされました。段違いな音の重さや迫力。

32番のアリエッタは、たぶん15〜16分の演奏時間になるやや早めのテンポ。

ポリフォニー(多声音楽)というキーワードでまとめたプログラムらしく、声部の絡みを明瞭に意識して描き分け(クッキリという意味ではなく)

音符のもつ魅力を引き出そうとしていたように感じました。

ただ、一方で余韻を生かす、という点にはあまり意識がいっておらず、間が空くとつい音符で埋めて魅力を作ろうとする傾向は感じられ、

ラフマニノフのような音で埋め尽くされ多たような曲のほうが、今の彼女には似合っていると思いました。

アリエッタの中盤から後半への、つまり静寂からトリルが始まり主題が回帰してくるまで、じわじわとクレッシェンドする盛り上がりの

演出、といったものにはそれほど関心がなかったようで残念でしたが、意図が明確でそれを音で表現できる力があり、

(曖昧でぼんやりごまかしたようなところのない)爽やかな演奏でこれはこれで良かったです。

 

今後の活躍に期待したいピアニスト、と思います。